Knowledge基礎知識
破産前に会社経営者として行うべき従業員への5つの対応
会社が破産すると、そこで勤めていた従業員は職場を失い、生活もままならなくなります。
それでも経営者の方が適切な対応を取ることで、少しでも従業員の負担を軽くする、不安を軽減することは可能です。
また、法律上の義務として求められる対応もありますので、「会社の破産を検討している」「従業員にはどう対応したらいいのだろう」とお困りの方はぜひ当記事を参考にしてください。
対応1.従業員への事情説明
従業員に対する説明・情報提供は法的義務ではありませんが、一切の説明なく突然解雇をして突き放すのではなく、経営者の道義的責任として必要な情報を提供することが望ましいでしょう。
特に従業員の立場から知っておきたい情報としては、未払賃金立替払制度や雇用保険の手続き、職業訓練制度などが挙げられます。生活保障にもつながるこれらの制度についてわかりやすく伝えることで、従業員の不安も少しは軽減されます。
ただし、「情報開示のタイミング」には十分注意してください。
従業員に対して破産の事実を伝えるのは、通常、事業停止のタイミングです。
前もって伝えておきたいと考える方も多いですが、情報が広まると現場が混乱してしまい、破産手続きに支障をきたすおそれがあります。
対応2.未払い給与や退職金の精算
従業員目線で特に心配になるのが「まだ支払われていない給与はどうなる?」「退職金は受け取れる?」といった点です。
倒産状態にある以上、十分な資金が会社に残っていない可能性が高いですが、残された資産から一定の債権については優先的に弁済すべきことが法定されています。
給与を請求する権利などの労働債権もその1種です。
そこで、給与については破産直前の3ヶ月分、退職金については破産直前3ヶ月分を基準に計算した金額が優先的に扱われます。
一般的な債権を弁済する前に精算すべきものですので、ある程度は回収ができるものと従業員に伝えておくと良いでしょう。
ただし、その全額が常に回収できるわけではない点にも留意してもらう必要があります。
破産前の支払いは要注意
会社の資金状況が許す範囲で、破産手続き前に未払い給与を支払っておくと、従業員の生活を一定程度守ることができます。
しかしながら、破産をするタイミングで特定の債権者を優遇することは認められません。
労働債権が優先されることに違いはないものの、給与の精算をした結果ほかの優先債権を持つ債権者が一切回収できなくなるような状況は避けるべきです。
対応3.解雇の手続き
会社が破産をすると法人格を失いますので、個人がする自己破産とは違い存在自体が最終的に消えます。
そのため従業員の雇用を維持することもできず、解雇を行うこととなるのです。
イレギュラーな形での解雇となりますが、それでも会社都合の解雇として、労働基準法に従い適正な手続きをとらなければいけません。
ここで留意すべきポイントがこちらです。
- 解雇予告手当の支払い
・・・従業員を解雇する場合、原則として30日前の予告が必要。30日の期間を設けないときは、その期間に対応する給与を「解雇予告手当」として支払わないといけない。 - 解雇に関する書面の交付
・・・従業員からの求めに応じて、解雇理由を記載した「解雇理由証明書」を交付しなければならない。これは従業員が失業給付を受ける際などに必要となる重要な書類。
なお、これらの義務は対象となる従業員が非正規であっても変わりはありません。
正社員のみならず、パートやアルバイトなどに対しても適正な手続きをとりましょう。
対応4.各種社会保険の手続き
各種保険関連の手続きも適切に行いましょう。
たとえば離職票の作成・交付、源泉徴収票の発行、健康保険や厚生年金保険の資格喪失手続きなどです。
従業員が解雇されたあと、スムーズに社会保険の適用を受けたり切り替え手続きを進めたりするためにこれらの手続きが必要です。
対応5.私物の返却や貸与品の回収
会社財産と従業員個人の財産も精算するため、従業員の私物については返却、会社から貸与していたPCやその他の物品については回収を進めましょう。
従業員が私用していたロッカーやデスクの中身を重点的に、できれば従業員立ち会いの下確認および返却を行います。
その際、破産財団に属する会社財産との混同を避けるよう留意しましょう。
会社から貸与しているもの、特に経済的な価値が大きなものについては確実に回収しておきます。
たとえばスマホやパソコン、車両などが挙げられます。
なお、ここで紹介した対応のほか、各社の状況により必要な措置が出てくる可能性もあります。
法令上の制約もある中適切に対処するにはどうすればいいのかと悩むこともあるかと思いますが、そんなときでも債務整理や法人破産に精通した弁護士にご相談いただければ解決します。