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企業法務

従業員を適法に解雇する方法や違法になるケースについて解説

法律上、解雇には合理的な理由が必要で、社会通念上相当と認められなければ無効になると定められています。
何をもって「合理的な理由がある」「社会通念上相当である」といえるのか、法的な相場を知っておかないと解雇が原因で大きなトラブルに発展するおそれがありますので、ここで解説する内容に一度目を通していただければと思います。

違法な解雇のリスク

違法な解雇をしてしまうことで、解雇された従業員が生活に困るという問題が生じるほか、企業側にも「信用の失墜」や「経済的負担」などの問題が生じます。

たとえば不当に行われた解雇の事実がSNSなどを通じて広く知られることで企業イメージが毀損してしまう危険性があります。
一般消費者からのイメージのみならず、取引先からの信用を失ってしまうこともあるでしょう。
社内で働くほかの従業員のモチベーションが下がるおそれもあります。

経済的な面でいうと、解雇時点から違法性が評価されたときまでの賃金の支払い義務(バックペイ)が生じますし、特に悪質な背景があるときは慰謝料の支払いを求められることもあります。
訴訟を提起されたときはその対応にも弁護士費用や裁判費用などのコストがかかってしまうでしょう。

解雇の種類と適法性の判断

解雇は主に「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3つに分類できます。
それぞれに固有の要件があり、それらを満たさなければ無効となる可能性が高くなるため注意してください。

普通解雇について

普通解雇とは、整理解雇や懲戒解雇に区分されない解雇で、主に従業員の能力不足や病気・怪我による長期の就業不能を理由とする解雇のことです。
一般的には次のようなケースで普通解雇が適法と認められます。

  • 経営に支障をきたすほど重大な能力不足が認められる
  • 配置転換・降格・研修などを行っても解決ができなかった
  • 指導・教育を行い改善に向けて取り組んだ背景がある
  • 業務遂行に支障をきたすほど、勤労意欲や協調性が欠けている など

一方、次のようなケースでは普通解雇の理由が不十分として違法になる可能性があります。

  • 単にほかの従業員より能力が劣っているというだけで解雇をした
  • 企業が指導を行わず、改善の機会も与えていなかった
  • 1ヶ月程度の病気や怪我による休職
  • 配置転換・異動により、ほかの業務で能力を発揮できる可能性がある など

このように、能力不足などを理由とするならその程度は重大なものでなくてはなりませんし、まずは解雇の前に改善に向けた取り組みも行う必要があるでしょう。

整理解雇について

整理解雇は、会社の経営不振などにより、やむなく人員整理をしないといけない場合の解雇を指します。
いわゆる「リストラ」です。
整理解雇においては基本的に次の4つの要素から適法性を判断します。

  1. 人員削減の必要性があるか
    1. 企業の維持存続が危ぶまれるほど差し迫った必要性がある
    1. 経営危機の状況を数値等により客観的に説明できること など
  2. 解雇回避の努力はしたか
    1. 役員報酬のカットや希望退職者の募集など、解雇以外の手段を模索した
    1. 整理解雇が最終的な手段と示せる など
  3. 人員選定に合理性があるか
    1. 勤務地や所属部署、担当の業務、年齢、勤務成績などを考慮した
    1. 恣意的ではなく客観的・合理的かつ公正な基準に基づいて選定した など
  4. 解雇手続きに妥当性があるか
    1. 解雇対象者や労働組合などに解雇の必要性を説明し、協議を行った
    1. 納得を得るための努力した など

一方で、経営状況の悪化を客観的に説明できない場合やその程度が重大ではない場合、あるいは恣意的な人員選定が行われていると客観的に判断できるような場合などには当該解雇は違法と評価されるでしょう。

懲戒解雇について

懲戒解雇は、従業員が重大な規律違反を犯したときに行われる解雇を指します。
厳しい制裁としての性格を持ちますので「就業規則に懲戒処分の種類や該当事由を明確に定めていること」が前提として求められます。

犯罪に対する刑罰のように「何をすればどのようなペナルティを受けるのか」があらかじめわかる状態になければなりません。
そしてその違反内容も、企業の秩序を著しく乱すほど重大な言動でなければ解雇処分が相当とはいえません。
たとえば次のような行為です。

  • 社内での暴力行為があった
  • 横領などの違法・不正行為があった
  • 犯罪行為により企業の名誉を著しく低下させた
  • パワハラやセクハラなどのハラスメントを繰り返していた
  • 重大な経歴詐称で入社していた など

ただ、重大な行為があったとしても就業規則に根拠がなかったり弁明の機会を与えないなど手続的正義に反していたりすると、懲戒解雇も無効となってしまうでしょう。

解雇に関してよくある疑問

解雇ができるのかどうか、よく疑問を抱きやすい点をいくつか紹介していきます。
ただし実際に解雇を行う際は個別の事情を考慮しなくてはならないため、弁護士にも相談のうえ検討を進めるようにしてください。

どの程度の遅刻や欠勤で解雇できる?

当然ながら、遅刻や欠勤が一度あったからといって解雇をすることはできません。
2,3回繰り返したとしても同じです。
解雇が適法となるのは、毎週のように遅刻を繰り返したり、再三の注意も聞かず欠勤をしたりして、業務にも支障が出てきているようなケースです。

また、繰り返し遅刻・欠勤をしていたとしても突然解雇をするのではなく、注意や指導をまずは行うようにしましょう。

病気や怪我の場合はいつ解雇できる?

病気や怪我で仕事を休んでいる従業員がいたとしても、その原因が業務上の事故にある場合、基本的に解雇はできません。

また、業務とは関係なく病気・怪我をして休業していたとしても、その期間が長期でなければ解雇が認められない可能性があります。
そして「期間の長さ」に加えて、「回復の見込み」にも着目しなくてはなりません。
もし、回復の見込みがなく長期間にわたり就業ができない状況にあるのなら、それを理由とする解雇も適法と認められやすいでしょう。

契約社員の解雇の要件は?

契約社員のように有期雇用で働く従業員の場合、契約期間の満了とともに解雇を行うことができます(厳密には「解雇」ではなく「雇止め」)。

ただし、これまでに契約更新が繰り返されており実質において無期雇用と同視できるような場合、そのほか契約更新に対し合理的期待がある場合には正社員に対する解雇と同様に考える必要があります。
契約期間が満了しておらず、契約期間中に解雇をする場合も同じです。

解雇するときの手続きは?

仮に適法といえるだけの理由があったとしても、即時解雇を言い渡して辞めさせることは基本的にできません。
解雇をする前に30日以上の期間を空けて予告をしなければならず、もし30日未満で解雇をするなら不足する予告期間に対応した賃金を支払う必要があります。
※非常に悪質、重大な違反行為を従業員が犯したときは例外的に即時解雇可能。